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愛と愉しみのスペイン料理

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スペイン料理関連のレポートを少しずつ。

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ダリの料理本「ガラの晩餐」を求めて

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サルバドール・ダリは「幼い頃コックになりたかった」と、言っていた。とろけたカマンベールチーズを見て、だらりとした時計が印象的な「記憶の固執」を描いた。晩年のガウディ建築を「食べられる建築」と形容し、最愛の妻ガラを「食べてしまいたい」ほど偏狂に愛していた。食と関連づけて思考するダリ。料理を芸術としてとらえたならば、どんな創作になるのでしょう。

ダリには、1973年に出版した「ガラの晩餐」という料理本があります。ただのレシピ本なのか、料理をアート化してるのか、内容はわからなかったけれど、どんなものか見てみたいと思っていました。思ってはいたけれど、入手は困難だろうし、目にすることもたぶん無いだろうと、勝手にあきらめてもいました。


テレビの中の「ガラの晩餐」

その存在すら忘れかけていたころ、ダリのドキュメンタリー番組がありました。「私が噂のダリである サルバドール・ダリ 天才の秘密」。わたしが見たのは、2004年にNHKハイビジョン特集で放送したものを、この春、BS版として1時間に編集し直したものです。親交のあった人たちのインタビューや再現ドラマで構成してあり、フィゲラスのダリ劇場美術館やダリが晩年よく通ったホテル・デュランのレストランも出てきました。

レストランでは支配人らしき人が、ダリが好んで座った席などを案内してくれた後、百科事典のような分厚い本を持ってきました。金色の表紙で、大きく「DALI」の文字とガラの横顔がデザインされています。そう。これこそが、ダリの料理本「ガラの晩餐」だったのです。

パリの名レストラン、トゥール・ダルジャンやマキシム等と共同で制作したもので、136点の料理写真とそのレシピ、ダリの絵とデッサンがふんだんに入っているといいます。ぱらぱらとめくって見せてくれましたが、絵も写真も大きく扱われ、画集のような豪華さでした。

コース料理のタイトルがダリらしく「夢うつつのやわらかい時計」「君主制の肉」「わたしが食べるガラ(les “je mange Gala”)」

そんなふうに名付けるくらいだから、料理はさぞかし奇想天外なものだろうと思いきや、そうではありませんでした。ホテル・デュランのレストランで再現された料理は、貝や甲殻類を使った正統なる晩餐料理でした。最高の食材を丁寧に調理し、ゴージャスに盛りつけた高級料理。

特に「ザリガニのピラミッド盛り」には、恐れ入りました。ザリガニが1mはあろうかという高さに積み上げられ、まるで赤いザリガニツリーのようにテーブルにそびえ立っていたのです。

ダリは、甲殻類が好きだったようです。やわらかな身を堅い殻で守るという生物としての成り立ちにも、惹かれたらしく・・・。世間から守ってくれる鎧がガラで、中身が自分。二人でひとり。一心同体という意味を含めて好きだったんでしょう。


雑誌の中の「ガラの晩餐」

再現といえば、「料理王国」10月号でもダリの料理が取り上げられています。こちらは、レシピのまま再現したというよりは、ダリに捧げるオマージュとして銀座マルディ・グラの和知徹シェフが独自に解釈して作ったものです。料理名は「ダリ風パナシェ」。「ザリガニのピラミッド盛り」を参考にしたらしく、オマールエビを中心にムースやパイを組み合わせた豪華な1品に仕上げていました。

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こうして参考にしているのだから、どこかに資料があるはずです。やはり「ガラの晩餐」をこの目で見たい。

数年前までは探すのさえ困難な状況でしたが、今はネットが充実しています。「ガラの晩餐」で検索すると、難なくその在処がわかりました。1976年5月号の「芸術新潮」の特集に、ダリの料理として、一部紹介されているらしいのです。30年も前の雑誌ですが、どこかにあるに違いありません。古書検索で、探す、探す。探しまくる。

膨大なリストの中から、発行年月の数字を目で追っていきました。まるで、宝くじの当選番号をチェックしてるみたいな気分です。

芸術新潮 1986年5月号 ああ、10年前だよ・・・
芸術新潮 1976年4月号 ああ、その次の号・・・・
芸術新潮 昭和51年5月号 ああ、惜しい・・・

ん? 昭和51年は1976年か? あ、あった〜!

すぐさま手続きをして、待つこと1週間。わたしの手元に1976年の「芸術新潮」5月号がやってきました。


「芸術新潮」の中の「ガラの晩餐」

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表紙からしてダリでした。「特集ダリの料理 その表現と味覚」。扉には「ザリガニのピラミッド盛り」が載っていました。料理は、「ガラの晩餐」からそのまま転載されたもののようでした。テレビでちらっと見えた料理写真が、「臣下にかしずかれた孔雀 帝王風」「蛙のクリーム煮」であることがわかりました。番組で披露された再現料理が、実に忠実にレシピどおり作られていたこともわかりました。

掲載料理は全部で30品。全カラー、レシピつき。岡谷公二さんの解説で、ダリの絵とデッサンも数点載っていました。

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レシピのひとつひとつを見ていきます。「ガラの晩餐」の料理はフレンチシェフが作っているため、フランス料理の範疇に入るのかもしれませんが、スペイン料理(カタルーニャ料理)の要素も含まれています。というか、スペインの伝統料理とも重なってくるのです。

魚のおなかに詰め物をする「アフリカの鯛」や「かますのベル・エポック風」は、ナバーラの「川ますの生ハム詰め」を彷彿とさせるし、ムール貝の中に米と野菜を詰めた「ムール貝のシュルプリーズ」は、「ムール貝の蒸し煮」。牛の胃袋と豆を煮込んだ「トリップ昔風」は、コシードを連想させます。

オリーブオイルよりも、バターが多く使われているけれど、血入りソーセージや鱈、手長エビやムール貝、かたつむりなどは、スペインでもなじみの食材です。

と、こうして無理矢理にでもスペイン料理と結びつけたくなるのは、まるっきりのフランス料理ではなく、スペイン料理でもあってほしいという願望にすぎません。

フレンチであろうがスパニッシュであろうが、料理をカテゴライズすること自体ナンセンスなのだけれど、カタルーニャを愛したダリなのだから、カタルーニャ料理、ひいてはスペイン料理にも愛着があり、どこかに反映させているに違いないと思いたいのです。

「ガラの晩餐」のなかに「トマトのタルト」というのがあります。トマトを甘く煮てパイ型に詰めて焼いたものです。フランスにもありそうですが、やはりこう思ってしまいます。

「トマトづかいが、スパニッシュだね」。

【関連リンク】

サルバドール・ダリの世界にひたるグッズとダリ展情報

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by kimamaspain | 2006-10-06 11:42 | 本・雑誌・新聞